morisankunの日記

アラサー。

普通の人でいいのに

バズってたから読んだ。「普通の人でいいのに」

これがバズるって事はTwitterの平均年齢って相当上がってる?というのがまず第一の感想だけどせっかく主人公と同年代なのでもうちょっと感想を書こうと思う。

 

何と言うか一昔前に流行ったよね。タラれば娘とか独身OLの日常とか。あれに近い。と思ったらこれもモーニングの賞の読み切りか。モーニングってこういう系統好きなの?

 

主人公は田中未日子。通称みこ。33歳独身。

仕事は中小企業の経理(最近転職した)彼氏が出来ず婚活アプリも上手くいかなくて前職の同僚だった好きでもなければ大して気も合わない男に誘われ彼で妥協しようか悩んでいる。

 

みこは「病気の犬」という芸人のファンで彼らがパーソナリティを務める深夜ラジオリスナーであり、愛聴しているラジオの放送作家である”伊藤さん”が常連として訪れるバー・タヒチに暇さえあれば通っていて伊藤さんとの恋が始まらないかなとうっすら期待しているサブカル系。作者曰く「情けない」「詰んでる」女。

文化人が集うバーで、バーテンダーをしているリサさん、常連客である美女で元地下アイドルのマナミちゃん、そして放送作家の伊藤さんと交流できるこの場所こそが素の自分を出せる、自分にふさわしい本当の居場所だと思っているみこは

しょーもない人間に囲まれて会社員として働く自分、憧れの伊藤さんよりも何ランクも下のあまりイケてない男・倉田だけにしか言い寄られない自分の現状に不満を募らせていて…

 

と言うストーリー

 

みこは文化人たちの織り成すキラキラの世界に憧れは持っているけど、同時に普通に生きた方が賢いんだよね?その方が幸せだよね?と常に誰かの目から見た正解を気にしながら生きて来た。

そして憧れの男・伊藤への失恋をきっかけに好きではないが無難なはずの男・倉田と付き合い「普通の女」っぽく扱われる、普通の女をジワジワと強要させられていく事に我慢が出来ずについに爆発する。(みこが自分で普通の男に合わせようとして合わせられなかっただけだから身勝手な爆発ではある)

  

結構バズってたからちょこちょこ他人の感想も読んでたけど

「彼氏にラジオ投稿の趣味を褒められてたのに切れた意味が分からない」とか言うのをちらほら見た。

この漫画…全体的に理解出来たり共感しちゃう方があんま良くないと思うけど

 あのくだりはみこ自身が自分の事を”ラジオにはがきを送ったり、バーで放送作家にネタ提供をする文化人の一員”だと自己評価してたのに、

みこが見下しているしがない一般人である倉田に単なるラジオ好きな一般人(の趣味)と見なされてしまった事で「業界側の人間じゃない」「特別な人じゃない」と自己評価を否定された事、そして頭ポンポンされた事の両方で怒りが爆発している。

 頭をポンポンする、って普通は犬猫や乳幼児を甘やかすもので、一人前の相手にするものではない。子供が相手だとしても小学生以上ならもうその子の自尊心を傷つける恐れがあるので不用意に頭ポンポンはやらない。例外は自分からそういう赤ちゃんプレイを求めているとき。

だから帰宅早々、自分のクリエイティブな部分を否定された上、頼んでもないのに頭ポンポンされた(趣味ではしゃいでいる幼稚な女の子扱いされた)みこは自分が倉田に見下されていると感じて爆発する。

  

倉田は悪い人じゃないんだろう。でも彼がアプリでもモテなくて35歳独身でみこなんかと付き合っちゃってる理由もよくわかる。

頭ポンポンは…あたまなーでーてー???とバブバブ言いながら擦り寄ってくる色んな意味で酔った人におねだりされてからやるものであってどんな女性も速攻で落ちる魔法の決め技ではない。むしろそういうムードでもないのに頭をポンポンすると普通は相手のプライドを傷つけて、好感度が下がる(これは男女ともに)

倉田は一応「女性にいきなり触ったりせずカラオケ店や飲食店でも相手の反応を伺い少しずつ距離を詰めようとする程度には常識がある」ので

ここの頭ポンポンは

→倉田的には頭ポンポンが彼氏彼女間でバブバブプレイをしたい、イチャイチャする時にする行為だという事は認識している。

→倉田的にはこの時のみこが「趣味のラジオでお便り読んでもらえたんだよ~しゅごいでしょ~見て~褒めて~」と自分に甘えて来たとジャッジした(勘違い)

→彼女であるみこに要求された通り「よしよしよかったね」をやってあげたつもりなんだけど

実際は全然そうじゃなくて場面の空気を読めてないし、みこの人物像も掴み切れてない。ので相手を怒らせると言う結果になった。

みこの悪いところはみこ自身、イチャイチャを仕掛けてくる倉田に対して内心冷め切っているのに表面上は自分も倉田と同じ温度感でイチャイチャが大好きな女性のように振る舞って相手の勘違いを増長させてしまっているところだ。

 倉田は無趣味かつマニュアル通りな人間で、一般的な「彼氏」「彼女」はこういう事をするだろう、というマニュアル通りの行動をしたがるだけで、恋人関係になっているはずの相手(今回はみこ)が本当はどういう個性で、何を欲しているかに興味がないタイプ。

一見穏やかで優しそうだけど本当の意味では全然優しくはない。要するに真面目系クズ。そもそも大人が趣味に夢中になったり本気になるという発想すら持ち合わせてない。

だから普段の会話でもみこが一応は興味を持っていて、楽しそうに話している内容に対してまずは否定し、鼻で笑い、わからない、やったことない、しらない、なにそれwでぶった切る。

 

もし倉田本人が無趣味でも、普通程度に想像力や思いやりがあれば、いくら空っぽ人間で浮ついた事ばっかり言うみこが相手とは言え楽しそうにしてる相手に対して明らかに引いて見せたり、どうでも良さそうに聞き流したり、小ばかにして笑ったりしない。

というか曲がりなりにも彼女が「自分の友達がバンド組んでるから見に行かない?」と誘ってくれたのに「ん?バンド?芸能人じゃない人の?タイバン??変な語感~!プークスクス!」は普通にウザい。

倉田の中でお金を出して観覧するバンド=有名プロの物に限る。インディーズや趣味でやってる人の演奏に金出す意味がないと思っていたとしても、相手のリアルな知人がやっているという情報を出されているのにこのリアクションは幼稚というか無神経。

 

倉田は正社員で働いていて暴力を振るわない…だけで良い人ではない。

男女逆にすると

・向上心や好奇心は薄く無趣味で「普通」のステータスにこだわるつまらない女(同じクラスや職場にいても普通にしてたら興味持たない程度のブス顔でスタイルも悪い。ギリギリ妥協して抱ける…程度)特別若くもないし処女でもない。彼氏の趣味に全く無反応どころか、否定的で小ばかにして笑ったりする。 普通であることのみに関心があるのでそもそも趣味全般は独身者や隠居老人の暇つぶし程度にしか感じておらず、それって結婚したら辞めるんだよね?普通は家庭第一だよね?貯金して40歳までに家を買って子供は2人だよね?

というタイプの普通だけど良い人と言うにはちょっと…こんな女と結婚したいか?って感じの女になる

 倉田は自分の希望「この日しかスケジュール空かない」「こういう場所では楽しそうにしてて」「箱根は近すぎるから伊香保」「海外旅行は新婚旅行で行くもの」とかは口調はやんわりながら全部自分の中で決まっててそれを押し付けようとしてくるあたり既にその片鱗が見えている。

なんか…ウザいなあこいつ…って言う感じ。みこと付き合う程度の男ってことで意図的にそう描かれてるんだとは思うけど。まあこんなんだから「普通の女性」は倉田を結婚相手に選ばない。

みこは倉田を見下してるけど、倉田は倉田でみこに興味がない。みこに興味がないからこそ見下されているのに気付かず付き合えてるともいえる。

しかもこの二人、みこが倉田に合わせることで付き合いが成立しているので(妥協の産物として合わせてるだけだからみこが良い人と言う意味ではない)倉田はみこに合わせる努力はしていない。その証拠としてみこの希望や提案は入りたい店から旅行先、休日の過ごし方に至るまで一つも通らない。全部倉田の希望が通る。

あくまでこの二人の関係の中ではみこが大人になって一歩引いて倉田の希望に沿っているのに、倉田的には趣味ではしゃいじゃうちょっと幼稚な彼女に大人な俺が頭ポンポンしてあげる♪をしてくるわけだからあそこで切れるのも無理はない。

あと普通の男が真面目にみこみたいな女と付き合ってたら普通は途中で「何だこの女意識高い系かよめんどくせ」「この女なんか俺のこと見下してるな、嫌な女だな別れよ…」って気付くと思うから、今までみこの元に誰も男が残らなかったように、立ち去ると思うんだけど倉田にはそれが分からない…だから35歳独身…。

  

・普通っぽい見た目・職業で、自分よりちょっとだけ若い女と普通の恋人同士がやることを普通にやれたらそれでOKで、特別優しくもなければ良い人でもない真面目系クズ男と

 ・理想が高いけど目標が絞れていないから得られるものが少なく、不満だけを溜め込む流され無個性女(これ面白いのがみこは憧れのリサや伊藤の意見に流されるだけではなく自分が見下している倉田にすら流されて付き合うという。全く自分の軸がない)の恋愛…

むなしい。

 

バーテンとして働く傍ら服飾デザイナーとしてもコツコツ努力を重ね、個展をひらく等結果も出し、同じく放送作家として番組を持つなど結果を出している伊藤と結婚したリサ(自分をしっかり持ってる人同士でお似合いだし釣り合いもとれてる)と、

 

一度は地下アイドルとして挫折したものの地道に努力して念願の音楽シーンに返り咲き、伊藤の後輩と交際スタートさせたマナミ(元地下アイドルと言う事で音楽シーンで見下されがちだったけど腐らずピアノの練習したりこの人も自分がしっかりある)

 

の二人に囲まれて「今度は彼氏と一緒にライブにおいで」と誘われたみこは

「彼氏は連れてきたくない」と誘いを固辞する。

(実際連れてこない方が良い。倉田を連れて来てもアウェイ感に堪え切れずに帰りたがる、つまらなさそうにするのが関の山。興味がないジャンルの人相手でも良い所を見つけて褒めようとするような屈託ない明るくて楽しい良い人ならとっくに結婚してる)

 

倉田がこういう場所が苦手だから倉田を尊重して連れてきたくないのではなく

自分が見下している男と妥協で付き合ってて、キラキラしているリサやマナミに紹介するのは恥ずかしい思っているから連れてきたくないという糞女感を爆発させ始めるみこ

(そもそもリサやマナミはみこの事を身内と思ってないから自分たちと対等に話が出来る男が来るとは思ってないし、そういう意味で誘ってないのに、勝手にみこがこの二人に自慢できない倉田に不満を感じている)

そしてついに社交辞令で「やさしい、良い男と付き合えて良かったね」って言ってくれてるリサとマナミに対してそんなに言うならお前らの男と交換してくれ!とみこは二人に最悪のマジレスをしてしまい、キラキラ二人をドン引きさせてその場から逃げだす。

 

自分の望むものが何も手に入っていないから、自分には価値がない、他人にも見下されているはずだと暴走したみこは(これはみこ自身が常に人を見下して生きているから、絶対に他人も自分と同じように見下しているという歪んだ確信に基づいている)

同級生?でハンドメイド作家をしていると思わしき友達に夜中に突然電話をかける。

「私のことバカにしてるでしょう、しょうもない男と付き合って、仕事も大したことない私を馬鹿にしてるわよね」

突然電話をかけてこられて内容がこれだった友達は最初意味が分からず

「やりたくない仕事して生きてるんだから彼氏くらいできてよかったじゃんとはマジで思ってるよw」と冗談っぽく処理してくれようとするが、

クソ女ムーブを爆発させたみこに「デザイナーと一緒に仕事してるからっていい気になるな」的な喧嘩を売られ、

「自分は自分が好きな仕事を出来るように努力してきた、その結果が今出てるだけだ(別にお前にデザイナーと繋がってますアピールなんかしてねえ。生活の中に自然にデザイナーがいる環境に自分を持って行っただけ)」とみこに言う。

 

文化人界隈に人脈を持ってる「つもり」だったみこ、と

本当に仕事としてその世界で生きて人脈を持っている友達の差は、なんでもない努力の差。と友達に突き付けられ、みこも内心認めるがそれでも納得できず空港に向かって走り出す。

多分友達はこの件だけではみこを見捨てはしないと思う。「この前こんな電話して来てマジウザかった」と他の友達に愚痴られるだろうし、今までと違ってこいつ何か卑屈になって拗らせててうっとうしいな、次同じこと繰り返したらFOするか、という感覚をどこかで持たれつつもみこから謝ればまた元の輪に戻れる。

彼氏の方も謝れば元さやに戻れるかもしれない

でもプライドが高いみこは多分どっちにも謝れずに孤独になる。という暗喩がくるのがラスト。

自分がそうなりたかった女(放送作家のイケメンと結婚し、仕事の傍らサブカル業界で自分の夢も叶えている)リサが旅行先に選んでいた「ウラジオストク」へと自分探しの旅に出ようとする。

それもリサがどうしてこの国を選んだのか、リサと自分の考え方の違いは何かとかしっかり考えて行き先を選んだのではなくて、単純にリサが行ってたからうわべで真似ただけ。

こういう状況では自分探しの旅に出るのがカッコイイと思ったから、と言うパフォーマンス旅行。

このパフォーマンスだけで生きてる感じ非常にみこと倉田はお似合いと言うか似た者同士なんだけど。

結局ビザがないと行けない国だったから入国できず空港で立ち往生

リサの旅行先にたどり着きさえできないwwというオチ。

元の場所にも新しい場所に行けず独りぼっちでおわり。

 

多分みこは何も成長はしない。年齢が年齢だし。

自分に酔ってた事だけは最後に少し察したけど、反省は出来ない…

だから孤独になる。というむなしさ。

 

これを読んで経理は立派な仕事だよ!だから経理の仕事に就いて、休日はバーに入り浸れる財力を持っていて、突発的に自分探しに行ける主人公も立派だよ!と言う感想はなんか違う。

経理は立派な仕事だし、それに就くにもそれ相応の努力は必要なんだけど。

 

この話はあくまで、身分不相応な望みを持ち、理想に近づく努力をせず、「普通の幸せ」が何だかんだ一番いいというフレーズの刷り込みに流されて、自分のしたい事を良く考えもせず他人と世間に流され、そのくせ他人の値踏みばかりしてた女が勝手に不幸になるという話だと思うので…

他人と比べたり他人の真似をしてもしんどいだけ。

自分で自分のなりたい自分像を見つけて、そこに向かって後悔しないように一生懸命努力をしなければいけない。…なかなか難しいけど